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最近快斗と会っていない。



新一は自分で淹れたコーヒーを一口飲むと小さく溜息を吐いた。

外では蝉がこれでもかというくらいの声で鳴いている。
空は晴れ渡り、連日猛暑を更新中だ。
大学は長い夏休みへと入り、日がな一日読書に明け暮れることができると新一が喜んだのも束の間。

「でな〜、そんときの刑事はんの行動がまた・・・」

何故か毎日毎日飽きもせず工藤邸を訪れて只管喋り通していく服部平次に、読書の時間は削られるは、気を使った快斗は遊びにこないはで、新一は結構なストレスを抱え込むハメになっていた。

「・・・なぁ服部」
「何や?ハラ減ったか?」
何か作ったろか〜〜と立ち上がる服部に、
(快斗の料理のが美味いんだよ)
心の中でぼやきつつ、
「そうじゃなくて、オメー大阪帰んなくていいのか?」
適当に服部を暫く来させないようにする理由はないものかと新一は口を開く。
「せやな〜お盆辺りにいっぺん帰ろ思とるけど・・・何や?オレが来んかったら寂しいか?」
(オイオイ・・・)
とことん前向きな服部に思わず頬が引きつる。
(こんな思考形態のヤツに本が読みたいって言ったくらいじゃ納得させられねぇよな・・・)
暫し思考の海に沈んだ新一は、
「そうじゃなくてだな・・・・・・ロスに行こうかと思ってる」
一番信憑性があり、一番納得してもらえそうな理由を述べた。



「へ?」
突然出てきたロスという単語に服部はきょとんとしている。
それは勿論、この夏休み中ずーっと新一と一緒に過ごして、自分が実家に帰省するときにもあわよくば連れていってしまおうなどと考えていた彼にとってまさに寝耳に水な言葉であって、またまたなんの冗談ですかと言った心境だからなのだが・・・。
「もともと長期休暇になるとしょっちゅうあっちに呼び寄せられてたんだ」
そう告げる新一に、俄かに服部は焦りだす。
「せ、せやかてオレと知り合うてからは全然行ってへんかったやん」
「そりゃ小さくなってたからだ」
「け、けどそんな急に行く言うても飛行機のチケットとか手配できんのとちゃうか?」
そうだ。チケットの手配ができなければ予定通り工藤はオレと一緒に夏休みをエンジョイや!と、服部が一瞬ほっとしたのも束の間。
ふいに立ちあがった新一はそのままリビングを出ていくと、暫くして一枚の封筒を持って現れた。
ソファに座りなおした新一は、じっと服部が見詰めてくるなか、封筒から何かを取り出した。
それをそのまま服部へと差し出す。

「・・・これは・・・」
「ロス行きのチケット」

服部が手にしたそれは、正真正銘ノースウェスト航空成田発ロサンゼルス行きの航空チケットだった。
「毎年毎年オヤジから送られてくるんだよ」
新一の言葉に服部はがっくりと項垂れる。
しかもチケットの日付を見ればもう明後日ではないか。

「・・・ほんまに行くん?」
「コナンだったころ全然顔出さなかったしな」
「さよか」
「っつーわけだから、準備とかしたいし」
オマエそろそろ帰れよ〜〜と爽やかな顔で告げる新一に、服部は流石にこれは仕方ないと溜息を吐いた。


「いつ頃戻ってくるん?」
立ちあがり玄関へと向かいながら服部は新一に問い掛ける。
もしすぐに戻ってくるのなら、夏休み後半は一緒に過ごせるのではないか。
そんな期待を胸に返事を待てば・・・、
「ん〜〜多分行っちまったらすぐ戻ってくるのもあれだし、夏休みいっぱいは向こうじゃねぇ?」
「さよけ・・・」
素気無い返答に服部は再び肩を落とさずにはいられなかった。

あまりの肩の下がりように苦笑した新一が、
「帰ってきたら連絡すっからよ」
そう告げると、服部はがばっと勢いよく顔を上げると、
「絶対やで!!」
必死の形相でそう言った。
「あぁ。だからオメーもたまには実家で親孝行してこいよ」
「せやな・・・そうするわ」
工藤がいない東都に居ても意味はなし。
自分も大人しく大阪へ帰ろう。
そう思いながら工藤邸を後にした服部は、やっぱりがくりと肩が落ちたままだった。




「うまくいったな」
扉が閉まり、服部が工藤邸から離れていくのを確認した新一は、
(服部にゃ悪いけど〜〜〜)
調子外れな鼻歌を歌いながらリビングへと戻ると、テーブルの上にぞんざいに置かれた携帯へと手を伸ばした。

―――ロス行きは勿論嘘である。
都合よく本物のチケットがあったので利用させてもらってしまった。
多分あの調子なら服部はすぐに大阪に帰るだろうし、
夏休みの間服部の携帯を着信拒否にしておけば怪しまれもしないだろう。

後は自分がここにいるという情報の漏れにさえ気をつけていればいい。


(これで気を使われる心配はなくなったわけだし)
呼び出し音を聞きながら、新一は妙に自分がウキウキしていることに気づいた。


最近会っていなかったし。
料理も食べていない。
コーヒーも淹れてもらってない。



(・・・暇だといいな)
そう思いながら待つこと数秒。
『もしもし?』
久しぶりに聞こえてくる心地よい声に、新一は頬が緩むのを感じた。




「あ、もしもし快斗?
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飛行機は嘘っぱち。調べてもいません。
ストーリーに関係ない彼らの夏休み話を書くか否か迷ってます。
う〜んどうしよ。