怪盗とお付き合いすることになった探偵が、時折ふらりと家を訪れる彼を馬鹿正直にキッドと呼ぶわけにもいかなくて、少しのこそばゆさを感じながらも快斗と呼ぶようになって(黒羽と呼んだら名前で呼びあったほうが恋人の雰囲気でるんじゃねぇと言われた)、三回目の日曜日。

その日はちょっと肌寒かった。


いつものようにふらっと現れた快斗は、特に新一を気にすることなく雑誌を読んでいる。
新一もまた、彼を気にすることなくお気に入りの本を読んでいた。

外は小雨がぱらついているけれど、こう言った日は外出せずにのんびり読書に励むのも有意義な時間の過ごし方だ。
新一は、美味いコーヒー(快斗に淹れさせた)とお気に入りのミステリにほんのり幸せを感じていた。



しかし、幸せな時間というのは長くは続かないもので。


雨のせいなのかどうにも寒くなってきた室内に、新一の集中力は途切れた。
お気に入りの本なので、どうせならいっきに読んでしまいたい。
けれど微妙に寒くて落ち着かない。だからと言って空調をつけるほど冷えているわけではないが、しかし上着を取りに行くのは面倒臭い。

折角の至福の時を寒さという意外な敵に遮られた新一が、楽な解決策はないものかとうんうん唸っていると、向かいのソファに座っていた快斗が隣に移動してきた。


どうしたのかと視線を向けると、そのまま隣に腰掛けて、腕を腰に回して…
「って!何やってんだ!!」

ちょこっと慌てた新一が少しだけ頬を赤くしながら問いかけると、
「だって今日ちょっと寒い」
新一を抱きこむようにして上手にソファに座りなおした快斗は、特に他意(笑)もないようで。
暖をとるように新一をぎゅっと抱きしめてきた。

一瞬ほんのちょっとだけ心拍数が上がったような気がした新一だったが、
確かに触れてくる快斗の体温は温かくて気持ちよくて。
心の中の動揺は見なかったことにして、自分も快適な体勢が保てるように微調整すると、擦り寄るように懐いてくる快斗をそのままに読書を再開した。



それ以後特に邪魔が入ることもなく、心ゆくまでお気に入りの世界を堪能した新一は、
満足げに本を閉じると、ふと気づいた。
耳元で小さく寝息が聞こえている。
どうやら快斗は自分を抱きしめたまま、寝入ってしまったようだ。
トクン、トクンと規則正しく体に伝わってくる心音に、何だかとても安心して。


お気に入りの本、美味いコーヒー。
そんな幸せの中に、この温かさも入れてやってもいいかもしれない、そんなことを考えてしまった新一だった。


「移動式湯たんぽ、お気に入りに追加だな」







ほんの少しだけ眉間に皺を寄せた怪盗は、
家政婦と湯たんぽ、どっちが格上か心の中で悩んでいたとかいないとか。








狸寝入りの怪盗は、探偵の優しい眼差しに気づかない。

















































































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選択肢は家政婦か湯たんぽだけで、まだ恋人はないんです。
恋人なのに。(笑)

やっぱりありふれたネタですが。
個人的には穏やかなのも好きなのですが、
力不足なので魅力がでない。うぐ。