「工藤はさ、オレに抱かれたいと思う理由、考えたことあるか?」


事後の気だるい空気の中で、黒羽がふと口にする。ソファの上で、新一は黒羽に被さるように重なっていた。話すと振動が直に伝わってくる。
黒羽はゆっくりと新一の髪を撫でており、まるで恋人のような空気に、時間がとまってしまえばいいと新一は思った。
「考えたことねぇの?」
黒羽が顔を覗きこみながら聞いてくる。
―――――――――答えられるわけがない)
新一は自嘲気味に笑うと、
「さぁな」
そう答えて黒羽の視線から顔を逸らした。




「あのさ、今日幼馴染と会ったんだけど・・・」
顔を逸らした新一に、少しの沈黙の後黒羽が語り始めた。
「・・・・」
思い出されるのは、彼女を見つめて優しく笑う黒羽の表情。
幼馴染から彼女になったとでも言うのだろうか。
せっかく黒羽に触れていられる時間に、そんな話題を出して欲しくはなかった。
顔を顰める新一に、黒羽は言葉を続ける。
「彼氏と喧嘩したとかで、散々愚痴られたんだ」
――――――彼氏?)
顔を逸らしていた新一は、反射的に黒羽へと視線を戻す。
目が合うと黒羽は嬉しそうに笑った。

「何かさ、お互い相手の気持ちが見えなくて、怖くて何も言えなくなってたんだってよ」
「・・・・・・」
「それでたまっちゃって大喧嘩したらしいんだ」
「・・・・・・」
「でも、言いたいこと言ってスッキリしたって。それですぐ仲直りしに行っちまってさ・・・」
人呼び出しといて、愚痴言うだけ言ったらさっさと彼氏んとこに戻るんだから、いい根性してるよなぁ?
そう言って笑う黒羽はとても清々しそうな表情をしている。
新一は多分自分が驚いた顔になっていると思ったけれど、どうやったら普通の表情に戻るのかわからなかった。

「でさ」
黒羽が幾分表情を改める。
「やっぱり怖くて言えないままじゃダメだよなって思ったんだけど・・・・・・ようやく確信持てたし」
小さな囁きとともに右手がゆっくりと新一の頬に添えられた。





「さっき、オレに抱かれたいと思う理由、考えたことあるかって聞いたよな?」
心臓が悲鳴を上げている。どこか意識の遠くで新一はそんなことを思った。
黒羽はくすりと笑みを零す。




「それが、オレが今までオマエを抱かなかった理由だよ」

それからゆっくりと、唇にあたたかな温もりが広がった。












その日新一は、散々泣いたにも関わらず、また涙が零れるのをとめることができなかった。
その表情はこれ以上ないくらい嬉しそうな笑顔だったけれど。





























































































END


スタートから約一年・・・・・。
長々とお付き合いくださって、本当に有難うございましたv