07:忘れたいのに、忘れられなくて。
もう一度君と過ごせる時間が温かすぎて。
君へのあの気持ちを忘れたいのに、忘れられずにいる。
「蘭と別れたんだ」
「・・・・・・・・・・・・・」
飲んでいたメロンソーダが喉に詰まるかと思った。
昼食を食べ終え、工藤はコーヒーを飲んでいる。
多分オレはとても驚いた顔をしていたのだろう。
オレの表情を見て、工藤は若干不貞腐れた顔をした。
定期テストの期間中、テストは午前中で終わるのだからどうせなら飯でも食おうと誘われて。
(彼女いんのにいいのかよ・・・)
いい加減こんな感情忘たい、君と普通の友人として付き合っていきたいと思いつつ、
忘れられないソレを胸に押し込めて、ふらふら来てしまったその矢先。
「何で?喧嘩でもした?」
不躾だとは思いつつも、オレは訊ねずにはいられなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
オレの質問に対して、工藤は暫く親の仇でも見たような顔でオレを見つめていたが、
「何でだろうな」
ぽつりと言うとそっぽを向いてしまった。
その表情は何故か拗ねているようにも見えた。
正直どこかで嬉しいと感じている。
でも、小さな探偵だった頃、必死に彼女を守ろうとしていたのを知っている。
もとの姿を取り戻してからだって、仲良く笑いあっているのを何度も見かけた。
(・・・・・・何で・・・)
工藤は納得しているのかとか、本当に幸せなのかとか。
それとも何か、また危険なことにでも関ってるのかとか。
色んな考えが浮かんで、ぐるぐると思考の渦に沈んでいたら。
いつの間にか隣に立っていた工藤に、ぐいと腕をひっぱられた。
「・・・・?」
「おい」
「工藤?」
「どっか行こうぜ?」
「って工藤!」
どんどんひっぱられて、すぐに店の外へと連れ出される。
いつの間にか会計も済ませられていた。
「工藤?」
問いかけたオレに、
「どこ行きたい?」
振り返った工藤の表情は、どこかすっきりとしていて。
(あぁもう、別れた理由なんて何でもいいや―――)
今君と過ごすこの時間を大事にしたい。
あの気持ちを忘れられずにいるけれど、だからこそ君の嬉しそうに笑う顔が見たいと思える。
忘れたいと思ったけれど、やっぱり忘れたくはない。
「どこにだって付き合うさ!工藤が行きたいところなら」
応えたオレに、君はとても嬉しそうに笑ってくれた。
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