桜の花弁が緩く風に攫われて地表へと舞い落ちていく。
ようやく穏やかな空気を纏うようになった世界のそこここで、春の訪れを感じた。
この4月から通い出した東都大は、キャンパスの至るところに植物が植えてあり、視界に優しい。
新一は一度深呼吸すると、「恋人」であるらしい人との待ち合わせ場所である学食へと歩き出した。




「恋人」であるらしい人―――服部平次は、まだ来ていないようである。
何故”らしい”のかと言えば、それを新一が実感できないからである。
コナンから新一に戻って直ぐに、『好きだ』と、『嫌いじゃないなら付き合ってくれ』と言われた。
別に彼のことは嫌いではなかったし、友人としては気安い方だったと思う。会話も他の友人に比べればスムーズであったし、何よりコナンであったことを知っていた。
新一自身、付き合ったところで何が変わるとも思えなかったが、服部が強くそれを望んだので、まぁいいかということで今に至る。余談ではあるが、隣家の新一専属ドクターはいい顔をしていない。
ともかく、その服部と待ち合わせをしているのだが・・・。
新一は、学食の人の多さに溜息を吐いた。


服部もこの春から上京し、東都大に通い出した。
工藤邸に下宿をしてもいいかと頼まれたけれど、流石に四六時中他人と一緒にいることは、純粋に安眠を妨げられるので断った。
結局、東都に彼の父親である服部平蔵名義の物件があるとかで、そこに住んでいる。
その場所は、電車などを使えば工藤邸に近いと言えないこともなかったが、新一は最初、事件を除けばこのニ年間はそうそう服部と会うことはないんじゃないかと思っていた。
理由は単純、新一の通う学部と服部が通う学部のキャンパスが二年間別のところであったからだ。
服部はこの事実に気がついたとき、随分と打ちひしがれていたようだったが、『愛に距離は関係あらへ〜ん!!!!』とか、よくわからないことを叫んで、時間が空くたびに、新一が通うキャンパスへと訪ねてくるのだった。ちなみに、新一が通うキャンパスのほうが都心に位置し、服部が通うキャンパスは辛うじて東都と呼べるような端にあったりする。








『もうすぐ着くで』そんなメールが届き、新一は少しほっとする。
とにかく4月の大学の学食は人が多くて(月が経てばだんだん減っていくとの噂だ)、常に待ち合わせ場所をここに指定する服部が少し恨めしい。
しかし自分で新たな待ち合わせ場所を設定する気にもならない面倒臭がり屋な新一だった。
チラチラとこちらを気にする視線に(流石に幾らか名前が知られている自覚はある)、再び溜息を吐きそうになったとき、
「工藤!」
学食の入り口から大きな声で自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
声の主はそのままバタバタと走ってくると、新一の前の席に腰を下ろした。
「おせぇよ」
新一が告げると、
「いや〜スマンスマン、出際に語学クラスのねーちゃんに掴まってしもうて」
相変わらずの大声で謝ってくる。
・・・・いいヤツだとは思うけど、この大声だけは何とかなんねぇかな・・・、新一は心の中でひっそりと思った。
「オマエ、無理してこっち来る必要ねぇんだぜ?」
何だか忙しそうな様子の服部に、別にそこまでして自分に合わせる必要もないだろうと新一が言うと、
「何?もしかして妬いてくれたんか!?」
見当違いの答えを返された。
・・・時々服部は日本語が通じなくなるような気がしてならない。
「心配する必要あらへんで!!」
オレは工藤一筋やからな!!!!だいたい恋人に会いに来んのは当然や!
そう力説する服部に、不審げな顔を向けると、
「せやから、会いとうなったらいつでも連絡しいや」
肩にポンと手を置かれ、ニカっと笑われた。



その後一頻り学食で話をし、家に帰るという新一に結局そのままついてきた服部は、工藤邸でも夕方から始まるバイトに間に合う時間まで喋りとおして帰っていった。


そうして漸く新一は一息つく。
一人の時間が好きである新一は、服部が可能な限り自分と一緒に居たがるのが不思議でならなかった。
勿論食事の時などは誰かが居た方がいいと思うけれども、あぁも長時間一緒にいられると流石に気が休まらない。
気が休まらないのには服部が頻繁に新一に触れてくることにも原因があった。
一応恋人らしいので仕方ないとは思っているが、どうにも過去に凶悪組織と渡り合った結果なのか、他人に触れられることに危機感を持ってしまう自分がいた。

「それでもまぁ、事件の話とか、それなりに楽しいしなぁ・・・」
そう呟いてしまう新一は、自分と同じペースで会話できる人間が極端に少ないのだった。






















































































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少しだけ長めの話なので書けたところからUPすることにしました。
平次がエセ関西弁でスミマセン(汗)
あまりにおかしかったらどなたか教えてやってください・・・。
はやく快斗が書きたいな。