「あっつ〜」

4月のような混雑はなくなったものの、それでもお昼の時間帯にはそれなりに人込み溢れる学食の一廓。
窓際の席で暑い暑いと言いながら熱いラーメンをすする服部に、向かいに座った新一は見るのもいやといった様子で教科書を捲っている。

長く停滞していた梅雨前線も漸く立ち去り、最近では肌に感じる日差しも随分と強い。
前期試験が目前に迫ったこの時期、学食のそこここでも飲み物片手にペンを走らせる姿が覗えた。
新一もそんな学生の例に漏れずに、出席できなかった講義の補足を行っている。
本来ならば図書館か自宅で行いたい作業なのだが、図書館がこの時期ありえない勢いで混雑しているのと、服部と待ちあわせをしていたことが理由で、仕方なく学食で教科書と睨めっこだ。

「…なぁ」
「なんや〜?」
ラーメンを食べ終えた服部は、たいして風もこないのに自身を手でパタパタと扇いでいる。
新一はそんなのんびりとした様子の服部に、ここのところ疑問に思っていたことを口にした。
「オメーテスト勉強しなくていいのか?」
新一の問いに、服部は驚いたように目を丸くする。
「工藤かてあんましてへんやん」
なら今現在服部の目に自分は何をしているように写っているのかと問いたくなった新一だったが、確かにそれほど一生懸命にしているわけではないのであえて言わないことにする。
しかしだ。
「オレは必要と思う程度にはやってる」
「さよけ」
だが服部は、新一が目にしている限りでは本当に全く勉強している様子はなかったし、テスト前だというのに相も変わらずこちらのキャンパスへと通ってきている。
「オメー大丈夫なのか?」
別に服部が単位を落とそうと知ったこっちゃなかったが自分の勉強を少々邪魔されている感がいなめないので、新一は思わず訊いてしまったのだ。
「あぁ、オレんとこの学部はほとんど後期に一回試験するだけなんや」
だから心配あらへんで〜。
そう言って笑う服部に、別にオマエの心配してたわけじゃないと心の中で突っ込んだ新一は小さく溜息をつくと、
「オメーは勉強しなくてよくても、オレはちょっとはしときたいんだよ」
事件で結構出席できなかった授業あるしな。
「だから―――」

「見つけた」

最近ずっと考えていたことを口にしかけた新一の声を、第三者が遮った。









「快斗」
聞き慣れた声に顔を向ければ、そこにはノートを片手に持った快斗が立っていた。
「食事中悪いね」
軽く謝る素振りを見せる快斗に、もう済んでるからと新一が首を振ると、そっかと応えて快斗は用件を告げる。
「この間の犯罪心理学のノート。渡すの遅くなっちゃって悪かったな」
「や、構わねぇよ、サンキュ」
わざわざ今渡さなくてもどうせ夜には飯を食いにくるのだし、その時でも構わなかったのにと思いながらノートを受け取った新一は、
「構うと思うぜ?」
続いた快斗の言葉に首を傾げた。
「?」
「だってそれ、明後日レポート提出だもん」


「な、何だと〜〜〜!?」
「ま、頑張れよ〜」
そう言って意地の悪い笑みを浮べつつ去っていく後姿に、
「工藤も友達おんのやなぁ」
と、服部はどこか失礼なことを呟いた。




「で?」
突然の来訪者の姿を視界から消えるまで見送ると、服部は視線を新一へと戻す。
慌てたようにノートを見始めていた新一に先程の話の続きを促すと、
「?」
既に彼の意識は半分以上ノートの中だったらしく、きょとんとした様子で顔をあげられ、服部は小さく溜息を吐くしかなかった。
「だから、さっき何か言いかけたやん。何やったん?」
「あ、あぁそうだった」
この数秒ですっかり忘れてしまっていたという態度に、それでええんか東の名探偵と思わずこっそりと突っ込んでいた服部は、
「オメー、試験終わるまでこっち来なくていいぜ?」
言われた瞬間、目をまんまるにして驚いた。

「なっ何でやねん!?」
「だから、オレだってちょっとは勉強したいんだよ」
ノートを捲りながら新一がのんびりと言う。
「工藤ならたいして勉強せんでも問題ないんとちゃうか!?」
俄かに慌て出した服部に、何をそんなに焦っているのかと疑問に思いながらも新一は続けた。
「レポートだってあるし、出席してない授業が結構あるんだよ。っつーかオマエだってそうだろ?」
事件現場ではしょっちゅう一緒になる二人である。
「せやけど…」
「そうそう、それに事件があればわざわざここに来なくたって顔合わせるんだしよ」
そうしてどんどん意識をノートへと向けていく新一に、服部は微妙な表情をした。

(…ま、仕方あらへんか…。コイツ、一回何かに集中したらこっちのこと全然気にせぇへんもんなぁ)
無理を通して、うっとおしがられるもの嫌だ。
折角手に入れたこの関係。ゆっくりと工藤が慣れていってくれるのを待つつもりでいたわけだし。
(試験終わるまでやしな)

「わかったわ、ほな工藤が試験終わるまでは来ぃへんよ」
「ん。オメーもちょっとは勉強でもすれば?」

こちらを見もせずに返される応えに、そんなとこも工藤らしいなぁと服部は少し笑った。





















































































































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いい加減間があきすぎで何がなんだか。