予想通りというか何というか。
服部はバイトに間に合うぎりぎりの時間に工藤家を出ていった。
『なんや工藤、今日は機嫌ええなぁ〜』
と、会った瞬間に言われ、新一の機嫌が良いと服部も自動的に機嫌が良くなるらしく、随分と本日の昼食は場が和やかだった。
新一は、機嫌が良い原因である(流石に自覚はある)快斗のことを服部に話そうかと思ったが、そういえば服部は事件意外で新一の口から知らない人間の話が出ると途端に機嫌が悪くなるのを思い出し、わざわざ和やかな空気を壊すこともないと、言わないことにした。
このまま快斗と親しくなれば、自ずと紹介する機会もあるだろう。
とりあえずそのことは思考の外に追いやって時計を見る。
――現在6時45分。
快斗が来るまで後15分。
そういえば、こちらから誘っておいてアレなのだが、肝心の夕飯をどうするか考えていなかった。
新一はう〜〜んと唸りながら、とりあえずキッチンへと向かう。冷蔵庫の扉を開けるが、勿論中に使えそうなものは入っていない。
(そりゃそうだ。だって最近買物行った記憶がねぇしな)
そんな自宅の台所事情に、さてどうしたものかと考える。
近所にわざわざ食べに出かけるほどの美味い店はなかった。
だからと言って遠出をする気にもなれないし・・・・。
(店屋物か?)
そんなことを考えながらうんうん唸っていると、インターホンが鳴った。
時計を見れば、いつの間にか7時ちょうどである。
時間きっかりの来客に、新一は慌てて玄関へと向かう。
扉を開けると、
「よっ」
快斗が買物袋を片手にぶら下げてにっこり笑っていた。
「・・・どしたんだ?それ・・・・」
明らかに買物帰りの近所のおばちゃん風情なのだが、何故だかそれがはまっている・・・。
「あぁこれ?夕飯どうするか聞いてなかったし」
時間結構遅いから、食べに出るのは面倒かなぁって思って食材買ってきちゃった。
そう応える快斗に、新一は素直に感心した。
「オマエ、用意いいなぁ。ウチの冷蔵庫何も入ってないし、どうしようかと思ってたんだ」
告げる新一に、
「だろう?食材買ってくるかどうか迷ったんだけどさぁ。何となく新一んちの冷蔵庫想像したら食べ物入ってる様が思いつかなくて」
快斗は笑う。何だか微妙に失礼なことを言われている気もしないではなかったが、実際助かってしまったので今回は不問にしてやることにした。
「ま、とにかく上がれよ」
「お邪魔しまーす」
快斗が買ってきた食材を持って、一緒にキッチンに並ぶ。
別に新一も全く料理ができないというわけではなかったが、てきぱきと下準備をしていく快斗に驚きの声が漏れた。
「オマエ、手先器用なんだなぁ〜」
「まぁな。言ったろ?マジシャン志望だって」
そう言いながら玉葱をリズムよく刻んでいく様は、マジシャンというよりは主婦だ。
「新一だって料理できないワケじゃねぇだろ?」
自分もさっさとじゃがいもの皮をむいていく新一に、快斗が問いかければ、
「基本的にめんどくせーことはやらねー」
何ともやる気のない答えが返ってきた。
「あはは、っぽいな〜」
「んだよ、いいだろ別に!」
そうして軽口を交しながら下ごしらえをしていたところに、不意に携帯の電子音が流れた。
慌てて新一が手を洗う。
「わりぃ!」
そう言いながら携帯の通話ボタンを押す新一に、目だけで構わないと告げながら、
(・・・事件かな?)
快斗は思った。
暫くして通話を終えた新一が、済まなそうな顔をしてキッチンへ戻ってきた。
「事件?」
「あ、あぁ・・・わりぃ、何かすぐ迎えが来るみてぇ」
こっちから誘ったのにホントごめん。そうして謝る新一に、
「呼び出し多いのは聞いてたし、気にしなくていいけど・・・」
コレ、どうする?
快斗は困ったように笑って、下拵えの終わりつつある食材を指差した。
結局新一は、合鍵を快斗に渡して家を出た。
食材を中途半端な状態でほったらかしておくのも勿体なくて、
適当に食べて適当に帰ってくれればいいからと。
知り合ったばかりの人間に対して少々無用心な気もしたが、快斗は何となく信用できそうだったし、いざとなれば隣家に頼もしい科学者がいる。
「無用心じゃねぇ?」
そう言って本人に苦笑されながら、いってらっしゃいと見送られた。
(悪ぃことしたなぁ・・・)
そう思いながら着いた現場では、何てことはない、証拠を皆が見落としていただけの事件で、あっという間に解決してしまった。それでも気がつけば10時近くて、流石にもう帰ってしまっただろうと、新一は送られる車の中で溜息を吐いた。
(ったく、こんなんでいいのかよ、日本警察!)
普段何かとお世話になっていることを棚に上げて、ついつい心の中で文句を言ってしまう。
日本警察の救世主は意外と子供っぽかった。
そうこうするうちに車が自宅の門前に横付けされて。
降り立ったところから見えたリビングの光りに新一は目を丸くした。
送ってくれた高木刑事に礼を言い、慌てて玄関を開けると、その音に気づいたのか、
「おかえり、お疲れさん」
リビングからひょこりと出てきた快斗に出迎えられた。
「た、ただいま・・・」
(何かこそばゆい・・・)
久しぶりに聞いた言葉、口にした言葉に、新一は一瞬照れて、そうじゃないと慌てて思考を戻した。
「帰らなかったのか!?」
思わず怒鳴りそうになるのを気を付けながら疑問を口にすれば、
「今目の前にいんじゃん」
そう言って笑われた。
「そうじゃなくて・・・」
「まぁ勝手に寛がせてもらっちゃってたけど、終電までには帰るつもりでいたぜ?」
「そっか」
多分色々考えて待っていてくれたであろう快斗に、悪かったなと謝ろうとする新一を遮って、
「それよかはやく飯食おうぜ?」
すげぇ腹減ったよ〜。快斗はのほほんと続けた。
「先食ってなかったのかよ!」
今度こそ新一は怒鳴った。
NEXT
長編て書いたことがなくて、
だんだん辻褄が合わなくなるんじゃないかと冷や冷やです。
(だったら続き書くときちゃんと前を読み返せ)