「こんちは〜」

玄関から聞こえたのほほんとした声に、新一は一瞬だけ顔をあげ、また視線を手元に移した。
現在課題のレポート作成中である。
もうほとんど内容については書きあがっており、後は全てをまとめて結論を記せばいいだけだ。
(後少し・・・)
そう思って新一が詰めていた息を吐き出したとき、
「お邪魔しま〜す」
ひょこりとリビングの開いた扉から快斗が顔を出した。
「よぉ」
突然の快斗の登場に、それを訝しむ様子は新一には見られない。
快斗のほうも至って普通にリビングへと入ってくる。
「よっ・・・あ、レポート中?」
「あぁ、もうすぐ終わるけどな」
「そっか。んじゃ作り始めて大丈夫だな?」
「あぁ。・・・あ、快斗!」
キッチンへと行こうとする快斗に、空っぽのコーヒーカップがにゅっと突き出された。
その様子にちょっと苦笑した快斗は、カップを受け取ると、
「ったく、しょうがねぇなぁ」
それでもどこか嬉しそうにキッチンへと消えていった。




すっかり遅くなった日没に、窓の外はほんのりとまだ明るい。
今日は梅雨の中休みなのか、最近では珍しく青空が一面に広がっていて、上がった気温の高さに夏の訪れを感じさせた。

新一が快斗と知り合って、もうすぐ一ヶ月半が経とうとしている。
会話上手で飽きさせないくせに触れて欲しくない領域には踏み込まない、そんな居心地の良さを作ってくれる快斗と、親友と呼べるような関係になるまで時間はかからなかった。
こうしてよく飯を食べにくるし(作るのはどちらかといえば快斗が多い)、次の日二人とも何も予定がないときは泊まっていくこともあった。
実は新一が、快斗が遊びに来ているときに栄養不足から来る軽い貧血を起こしたことがあり(暫く難事件に取り組んでいて寝食を忘れていたらしい)、それを見兼ねた快斗がせめて食事くらいはきちんと摂ってくれるようにとの思いから、工藤邸に度々食事をしに来るようになったというのは、新一の与かり知らぬところである。
新一としては、一人の食事は味気ないし、快斗の料理がそれなりに美味しい、そんな理由で快斗が来るのを歓迎していた。
ちなみに頻繁に訪れる快斗にいちいち玄関まで出ていくのが面倒だったため、快斗には合鍵を渡してある。
突然の登場が普通のこととして扱われているのは、そんなことからだ。
(ま、一緒にいても気にならないし、話てても楽しいからな)
今も鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れている快斗を見やる。
彼の淹れるコーヒーも、新一はこっそりお気に入りだったりした。





「終わった・・・・」
漸く全て書き終えて添削も終了したレポートに、新一はほっと息を吐き出す。
意識を現実に戻せば空腹を刺激するいい香りが漂ってきていた。
ノートパソコンを閉じて立ち上がると、キッチンから快斗が顔を覗かせた。
「終わったかぁ?」
「あぁ」
「もうすぐ出来っからちょっと待ってろよ〜」
「ん」
そうしてまた引っ込んでしまう快斗に頷くと、新一はノートパソコンを邪魔にならないところへ追いやると、手持ち無沙汰にテレビの電源を入れた。
途端流れ出す情報。
適当に合わせたニュース番組に、何度か対峙したことのある相手の名前を見つけた。
『怪盗キッドはまたしても鮮やかな手口で標的とされた宝石を――――』

怪盗キッド。

新一が殺人事件以外に唯一心躍らせた泥棒だ。
追い詰めたと思ってもひらりとかわされてしまう、そんな彼との頭脳戦はとてもワクワクした。
彼から警視庁へと送られる暗号も非常に魅力的で、できるならまた警備に参加したいとは思うけれども・・・。
「そういや新一はキッドの警備とか参加しねぇの?」
そんなことを考えながらぼんやりと画面を眺めていた新一に、いつの間にキッチンから出てきていたのかお盆を手にした快斗が立っていた。
のせられた料理をテーブルへと移していくのを手伝いながら新一が応える。
「う〜ん・・・参加したいとは思うんだけどな」
茶碗を受け取る際に掠った指先に、こいつ指長いな、そんなことを思った。
「けど?」
本日のおかずをてきぱきと並べながら語尾だけを繰り返す快斗に、新一は肩を竦める。
「キッド専任の警部が一般人の介入を嫌がるんだよ。それに何か専任の探偵までいるみたいだし。どうせそんな現場行ったって警備に口出せるわけでもねぇし、協力要請でもないかぎりいかねぇよ」
普段あまり事件のことなどに突っ込んでこない快斗に、珍しいなと応えながらも視線を向ければ、
「ふぅん」
気のない返事をしながら、快斗は曖昧な表情で笑っていた。























































































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久々すぎて…色々心配デスあわわ…。