「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」
「・・・・・・どうしたんだよ?」
午前の講義を終えて待ち合わせ場所に向かった新一の目に飛び込んできたのは、長い溜息とともに学食のテーブルに懐いている服部の姿だった。
「それがな、昨日ちょっとオヤジに頼まれた用があって警視庁に行ったんやけど、そんときに・・・」
言い掛けた服部の言葉を、携帯の電子音が遮った。
新一は片手で謝る動作をして、音の発信源の通話ボタンを押した。
「はい・・・・・はい・・・・はい、え?構いませんが・・・いいんですか?・・・・はい、わかりました。内容をお聞きしても・・・・」
真剣な様子で電話の相手に返事を返しながら、片手で器用に取り出した手帳へと何かをさらさらとメモしていく。
そうして二三簡単なやり取りをした後、新一は電話を切った。
「なるほど、コレが原因か」
納得したように手帳を軽く持ち上げた新一に、服部は些か憮然とした顔をする。
「何や、今の電話、警部さんからやったんか」
「あぁ。その顔じゃ、まだ解けてねぇんだな?」
そうしてニヤリと笑った新一の手に握られた手帳―――そこには、怪盗キッドの予告状たる暗号が記されていた。
「昨日警視庁に行ったときにたまたま見してもろたんやけど・・・」
一晩考えたんやけど、ちぃっとも解けへん。
そう言ってまたテーブルに懐く服部を横目に、新一は非常に楽しそうな顔をした。
怪盗キッドはできるなら自分が捕まえたい、そう考えている新一だった。
彼との対決はとても気分が高揚するし、幾度か対峙しやりとりした会話は、謎かけのようであり言葉遊びのようでもあり、とても楽しかった。
実はコナンだった頃何度か危ういところを助けてもらったりもしているので、是非ともこの手で捕まえて彼の真実を見定めたいと思っている。
警察に引き渡すかどうかはその後だ。
今回の暗号は普段警視庁に出される意外と率直なものではなく、服部が唸っているのにも頷けた。
先ほどの警部の話では、二課ではお手上げ状態になっており、専任の探偵からも解読の連絡がいつまで経っても入らないので、仕方なくこちらへ連絡を回してくれと頼まれたとのことだった。
『ただでさえ一課で面倒をかけてるのに済まないね』
そう申し訳なさそうに告げた警部に、むしろ難解な暗号を見せてくれたことにこっそり感謝したいくらいだと心の中で新一は思った。
結局その日は服部と二人、黙りこくってみたり、ああでもないこうでもないと討論し、はっきりとは解けないまま1日が終わったが、次の日起き抜けに突然閃いた新一は、読み取れた予告日予告時間、そして侵入経路を馴染みの警部に連絡すると、再び思考の渦へと沈み始めた。
予告日は土曜日。明日だ。
時間も侵入経路もわかったのだから、気分すっきりと行きたいところだったのだが・・・。
予告状のある一箇所。そうと気付かなければ素通りしてしまうような一文。
その奥に隠された本当の意味を読みとって、新一は如何ともし難い気分になっていた。
正確に全ての暗号を解いて初めてわかる逃走経路―――――まるで追い詰めてみせろとでも言わんばかりに記されたそれは、もしかしなくても自分への挑戦状なのではあるまいか。
(・・・ヤロゥ・・・余裕かましやがって!)
こうなれば、意地でもオレが捕まえてやる!!!
そう意気込んだ新一は、他の誰に連絡することもなく、単身キッドの逃走経路に向かうことを決意したのだった。
NEXT
なかなか書きたいところまで辿りつきませぬ…。