キッドから与かった宝石を中森警部へと渡し、さっさと現場を後にした新一は、次の日が休みであるにも関わらず読書もせずに早々に布団の中へと入った。
確証はなかったが多分訪れるであろう人物を、起きてきちんと出迎え、そして話をするためである。
そして翌日、一限がある日並みに早起きした新一は、コーヒーを一杯入れるとゆっくりとリビングのソファへ腰掛けた。
―――件の人物がいつ現れてもいいように。
そうして一時間ほど経った頃、静かに玄関の扉が開き、普段なら寝ているであろう自分のためにか足音をまるで立てない客人がリビングへと姿を現した。
扉を開けた途端目に入った新一の姿に、僅かばかり目を見開いた客人――快斗は、けれどすぐにいつも通りの表情になると、
「起きてたのか」
苦笑して新一の向かいのソファへと腰掛けた。
「何で黙ってた」
快斗がソファに落ち着くと、新一は開口一番にそう言った。
新一が起きていた時点で問われることを予想していたのか快斗はいたって落ち着いた様子であったが、それでも少しだけ困ったような複雑な笑みを浮べた。
「やっぱ気づいたか」
「そりゃぁな」
快斗を知らなかった今までならともかく、これほど親しくなった人物をいくら気配を変えているからと言って見抜けないようでは探偵としてどうかと思う。
そんなことを考えていた新一に、少しの間沈黙していた快斗は表情を幾分真剣なものへと変えると、
「怖かったんだろうな」
そう言った。
「捕まることが?」
快斗の応えに複雑な気持ちになりながらも新一はすぐに切り返す。
新一の真っ直ぐな視線をただ受けとめていた快斗は、一拍置いて苦笑とともに小さく呟いた。
「オマエの信頼を裏切ってることが」
「オレも予定外だったんだよ」
そう言った快斗は、ほんの少しだけ自嘲するかのように唇を歪めた。
静かなリビングには時計がカチカチと時を進める音だけが響いている。
新一から視線を外し遠くへとそれを向けた快斗は、何かを思い出しているようにも見えた。
新一は彼からの言葉を待った。
やがて、遠くを見ていた視線を新一へと戻した快斗は、
「ここまでオマエと気が合うなんて思ってなかったんだ。
まさか探偵であるオマエと本当に…親友になりたいとか、思うなんて―――」
吐き出すようにそう告げた。
快斗の言葉に、新一は僅かばかり目を見張った。
快斗はそんな新一に気づかずに、静かに胸の内を吐き出していく。
「自分から告げてオマエが離れてくことが怖くて。でも心のどこかではオマエに気づいて欲しくて…、それで試すようにオマエを現場に引きずりだしたんだ…」
一度言葉を切った快斗は、姿勢を正すと紳士な瞳で新一を見詰めた。
「黙っててごめん」
警察に通報してもいいし、迷惑ならこれ以上は一緒にいないから。
言うだけ言って判決を受ける被告のような顔で微動だにしない快斗に、新一は暫くの沈黙の後、怒ったように口を開いた。
「テメェオレを何だと思ってんだ」
キツイ目をした新一に、快斗は辛そうに眉を寄せる。
「…新一は、探偵だ」
そして自分は対極に位置する怪盗―――。
覚悟を決めたような表情で立ち去ろうと腰をあげた快斗は、
「バーロ!」
けれど先ほどよりも更にきつい声音で怒鳴られた。
続いて額を軽く弾く感触。
驚いて顔をあげた快斗の目に、憤慨したような新一の姿が飛び込んできた。
「そりゃ、オレは探偵だけど」
新一は先ほど快斗の額を弾いた自分の指を見つめながら思う。
(キッドも快斗も、オレの好奇心を満たしてくれるし、オレの心を温かくしてくれる。)
(―――手放すなんてできっこない)
ほんの少しだけ身動ぎしながら、
「その前に、とっくにオメーの親友だと思ってたけどな」
新一は、照れたように続きを口にした。
「!!!」
その言葉にこれでもかと言わんばかりに目を丸くして固まってしまった快斗に、新一は今度は幾分楽しそうな声音で、
「でもやっぱ黙ってたのはムカツクから、今日から一ヶ月、オマエずっと飯炊き係な!」
そう言って笑った。
「…了解」
どこか泣き出しそうな顔で、快斗は頷いた。
NEXT
まとまりのない文章になってしまった…。
服部と快斗が出会うまで後ちょっと!!