気付いてそこに立った。
――――――黄昏車窓
タタン、タタン―――――――。
決められたようにほぼ一定のリズムを刻んで響く音が心地よい。体内で反響するそれは、幼い頃の母の手を連想させるのか、いつの間にか眠気を運んでくる。
西日が車窓から射し込んでいた。
どこからか緩く流れてくる風に、誰かが窓を開けたのだろうとぼんやりと思う。
ほどほどに混雑した車内は、暖房と日差しの両方に暖められ、随分とほかほかしていた。
幾らか体重をかけていた吊り革を握る手から、少し力を抜く。
少しだけ焦点を遠くへと動かせば、窓の外を流れていく無機質な箱達が目に入った。
あと少ししたら、それらには灯りがともり、眠らない街を照らし出すのだ。
新一は、時折ビルの屋上から見やる箱達の灯りが嫌いではなかった。
『次は緑台駅ー、緑台駅ー。降り口は――――』
車掌のアナウンスが聞こえ、電車は速度を落とし始める。
ガタッ。
ふいに襲った小さな揺れは、些か無理にブレーキを効かせたせいだったのだろう。
車内の幾人かの人がよろめいた。
新一も、慌てて吊り革をしっかりと掴むが、ほんの少しだけバランスが崩れた。
その拍子に自身の左手と、横に立っている人の右手とが、微かにぶつかった。
――――――触れる、指先。
隣に立つ、見ず知らずなはずの人。
掠った小指同士が、一瞬だけ、絡まった。
タタン、タタン――――――。
刻まれる速度は段々と遅くなり、電車は静かにホームへと到着した。
新一は、変わらず窓の外の景色を見ていた。
少し、日が傾いたようだった。
日が傾いて箱に灯りがともり、新一の心にも灯りがともったというわけです。
おまけというか・・・補足というか