特別になりたかったんだ。
誰にも言えない秘密を打ち明けてもらえるほどの
――――――






                      
               Especial Christmas Eve








視界を覆うほどの満月。
眼前に佇む白い姿は冷涼とした気配を纏い、いつもとなんら変わりはない。けれど自分の視線を奪って離さないその人は、決して振りかえることはなく。
向けられる背中がひどく苦しくて、新一は無意識に手を伸ばしていた。


「・・・いち、新一!」
声とともに肩を揺すられ、新一は覚醒へと促された意識を呼びかけてきた相手に向けた。
「・・・・・ッド?」
「授業終わったぜ?」
ったくぼーっとしやがって、そう言いながら軽くノートで新一の頭を叩いた男は既に席を立っている。
(・・・あぁ、夢見てたのか)
辺りを見回せば講義を終えた学生達が徐々に教室を後にしている。
漸く状況を認識した新一は、
「・・・いてぇ」
穏やかでない起こし方をした相手に、痛くもないのに文句を言った。
それに軽く肩を竦めた男は特に気にしたふうもなく歩きだす。
「早く飯食い行こうぜ?」
「あ、待てよ快斗!」
机の上にノートを広げたままだった新一は、慌ててそれらを鞄に詰めると快斗の後を追った。



今年最後の講義を終えた新一と快斗は、昼食を食べ終えると直接家に帰ることはせず、本屋やCDショップなどあちこちぶらぶらしていた。
日中と言えど暖房の効いた店内と屋外との寒暖差は激しく、店を出るのを躊躇っていた新一は、後から会計を済ませて追いついてきた快斗に無理矢理押し出される形になった。
「・・・・さみぃ」
途端吹きつける北風に、新一は思わず首を竦める。
「だから日が落ちる前に帰ろうぜ?まだ行くとこあるか?」
背中を丸めた猫のような様に、快斗が苦笑しながらも鞄の中にしまってあったマフラーを首に巻きつけてやると、
「・・・ない、けど・・・」
新一はサンキュと小さく呟きながらマフラーに顔を埋めるように俯いた。
「?」
返事をしたきり俯いてしまった新一に、快斗は不思議そうな顔をする。
きっと全く新一の心中になど気づいていないだろうそんな快斗の様子に、新一は少しだけ苛立ちを覚えた。
(あぁクソ、鈍感め)
心の中で快斗を罵りつつも、仕方なく新一は口を開く。
「・・・オメー、今日どうすんだ?」
幾分不機嫌な声になってしまっても、それは責められぬ話というやつだ。
「ん〜?ご所望とあらば飯作りに行くけど?」
「じゃぁビーフシチュー」
「了解」
快斗の答えに漸く顔を上げた新一だったが、その顔は今だ不機嫌なままだった。


帰るつもりでいたのなら、もう少しだけぶらぶらしたい。
家に来るつもりなら、すぐ帰りたい。



新一は、そんな自分の中にある感情に随分前から気づいていたが、だからと言ってそれは簡単に口にできるものでもなかった。
(だって
―――――――――――――。)








取り留めのない話をしながら、二人並んで駅へと向かう。
通り過ぎる街並みは至るところに綺麗なイルミネーションが施され、歩道の一廓には大きなツリーが飾られている。どこからともなく聴こえてくるのはこの時期決まって流される曲で、辺りはすっかりクリスマス一色だ。
「もうすぐクリスマスだな〜」
そんな快斗の呟きに彼のほうへと顔を向ければ、その先にあった駅前の広告塔に写し出された巨大ポスターが目に入る。
そこには20日から25日までの間米花博物館で催されている、大手ジュエリーメーカー主催の宝石特別展示会についての詳細が書いてあった。
その中でも一段と目を惹くのが、ポスターの中央を飾る鮮やかなビッグジュエルの写真。今回の特別展示会のメインでもある、24日にのみ限定公開されるそれは、怪盗キッドのターゲットとなっていた。

新一は小さく溜息を吐いてこっそりと隣の男を覗い見る。
流れてくるクリスマスソングに調子を合わせながら鼻歌を歌うその男は、相変わらず新一の心中になど全く気づいていないようだった。
少しだけ恨めしそうに、新一は宝石展示会のポスターを睨んだ。



快斗とは、こうして授業の後や休日などを頻繁に一緒に過ごしている。
今でも気の置けない友人であることは確かだったが、新一はいつからかそれ以上を望んでいた。
けれど、快斗はそうではない。
多分
―――――――――――打ち明けようという素振りや、隠していることへの躊躇いさえ覗かせないということは、そういうことなのだと思う。



新一はもう一度だけポスターを見やると、小さな決心をした。









































































































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