「快斗、風呂あいたぜ」
あれからすぐに工藤邸に帰宅して、二人で作った新一好みのビーフシチューを食べた後、くだらない話で盛り上がった二人が気づいた時には既に日付を越える時間になっていた。
結局泊まっていくことになった快斗をリビングへ残し、先に風呂に入った新一だったが、
「入って来・・・」
リビングへの扉を開けながら言おうとした言葉を、けれど最後まで音にすることはなかった。

ソファの肘掛を枕にするように、静かに寝息を立てているその姿に、新一は思わず微笑む。
読んでいる途中で眠気に襲われたのか、胸の上に開いたままの雑誌が伏せてある。快斗がこの家に持ちこんだ、マジックの雑誌だ。


快斗が、他人といるとき熟睡しないのを新一は知っていた。
こうして泊まりに来るようになってからも暫くは、新一の気配に熟睡をすることはなかったように思う。いつだったか服部がいきなり泊まりに来た日などは、寝たふりしかしていなかったのではないかと思うほどだった。
新一も気配に敏感なほうであったから、泊まりにきた快斗が熟睡していなければ必然的に熟睡しないといった具合であったが・・・。
いつからか。
新一は熟睡できるようになっていた。そして、今目の前で穏やかな寝息を立てる彼も・・・。


慣れなのかもしれないけれど。
そのくらいには、心を許してくれていると思っていいのだろうか。
それでも、打ち明けるには至らないのだろうか。
(オレが探偵だからか・・・?それとも、やっぱりオマエの中じゃ秘密を分かち合えるような、そんな存在じゃねぇのかな・・・)






以前、ここで交された会話がふと甦る。
その前日が、怪盗キッドの予告日だった。


『昨日何してたんだ?』
何気なさを装って訊ねた新一に、
『ん〜〜〜ヒミツ』
何気ない風に快斗は答えた。

ウソは吐かれなかった。けれど、隠された。

思い出されたのは、一人空を見詰めていた彼の姿
――――――
自分と知り合ってから、彼が空を見詰める姿を目にしたことはないけれど、相変わらずどこかで一人空を見ているのだろうか・・・。
共有すること望んではいない・・・・?
彼は誰をも特別な存在として見ることはないのだろうか・・・。





今度の予告は明後日、午後8時。
新一は行動を起こすことを決めていたけれど、結果を考えるとどうしようもない切なさが胸に押し寄せた。


「オレは、オマエの何なんだろうな・・・・」
穏やかな寝顔の前に、少しの苦笑が浮かぶ。
微かな胸の痛みを紛らわすかのように、新一は柔らかなくせっ毛をそっと梳いた。









翌日。
昼過ぎまでリビングでだらだらとしていた二人だったが、新一が馴染みの警部に呼び出されたため、快斗も新一と一緒に工藤邸を後にした。
門前には新一を迎えにきた高木刑事の車が停まっている。
「じゃな」
運転席に収まっている高木刑事に会釈した快斗は、新一を振りかえると軽く片手を上げて歩き出した。
数秒その背中を見詰めていた新一は、一度だけ深く息を吸いこむと、
「快斗!明日の夜8時、時計台で待ちあわせな」
それだけ言って快斗の返事も待たずにさっさと車に乗りこんでしまう。
驚いたように振りかえった快斗は、そのまま走り去っていく車を見えなくなるまで見詰めていた。


















































































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