キンと張り詰めた冬の空気に、吐き出される息は白い。
見上げれば気温の低さにか、東都であっても幾許かの星の煌きを目にすることができた。
淡い光にライトアップされた時計台の長針が、ゆっくりと頂上を目指して時を刻む。
新一は、長針がその動きを進める度に重くなっていく気持ちに、もう何度目になるかわからない溜息を吐いた。
快斗のことをキッドだとわかっていたくせに、予告日予告時間に一方的な約束をした。
1時間くらい遅れてくるかもしれない。来ないかもしれない。
もしかしたら来られない旨のメールが入っているかもしれない。
けれど新一は、あの時快斗と別れて以来携帯の電源を入れてはいなかった。
こうしておけば、待ち合わせの時間に現れない彼に、気持ちの整理がつけられる。
打ち明けないのは、探偵と怪盗、そんなことが原因なのかもしれなかったけれど、どこまで行っても自分は探偵で、彼は怪盗だ。ならば、そんなことではなくて。
(一方的なものだったとしても)自分との約束を破って、そしてその本当の理由を打ち明けられなければ―――――――。
(オレは快斗の中で特別にはなり得ないって、オレ自身を納得させられるから・・・)
納得したところで、快斗に対する感情はすぐにどうこうできるものでもなかったけれど、それでもきちんとした距離を計っておきたかったのだ。
これ以上彼との居心地のよい空間に、期待してしまう前に。
ゆっくりと、けれど冷たい北風が流れていく。
新一は、先日快斗に返しそびれたマフラーを口元まで引き上げると、近付いてくる約束の時間に、目を逸らさぬよう時計台の文字盤を見詰めた。
今頃米花博物館では物々しい警備の中、キッドが出番を待っているのだろう。
ギャラリーも、彼の登場を心待ちにしているに違いない。
(困らせちゃったかな・・・)
優しい快斗のことだ、きっと少しは悩んでくれただろう。そのくらい自惚れるのは大目に見てもらいたい。
今日は帰ったら酒を飲もう。折角のクリスマスなんだし、たまにはチョコレートケーキでも買って食べてみようか。快斗のことを考えながら食べれば、少しは甘いものが好きになるかもしれない。
勝手に取りつけた約束に、勝手に失恋気分になっている自分がおかしくて、新一は少し笑った。
長針がぶれる。
少しだけ滲んでしまった視界を軽く擦ると、これから訪れる胸の痛みに耐えるべく、ゆっくりと息を吸いこんだ。
鐘がなる。
厳かに響き渡るその音色に、新一は、そう遠くない場所でショーを繰り広げているだろう彼を思った。
(――――――うまくやれよ)
捕まるなんて思っちゃいないけど。
鐘がやむ。
自分は彼の特別になり得なかったけれど、彼は自分の特別だ。
最後の余韻まで聴き終えた新一は、ほんの少しの切なさとともに時計台を後にした。
これで終わり・・・のつもりだったのですが(笑)
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