『あなたは本気で人を愛したことがないのね・・・だからわからないのよ』
事件現場で言われた言葉。
実際その通りなのだろうけれど、心に妙なしこりが残った。






イライラしたまま訪れた怪盗の逃走経路。
苛立ちを隠そうともしない探偵に、普段は余裕綽綽の怪盗も流石に少し心配になった様子。
「・・・名探偵?どうかしたのか?」
顔色を伺うように訊ねられた言葉に、
「あのさぁ、オメー・・・本気で人を好きになったことあるか?」
探偵は、怪盗を非常に微妙な気分にさせるような問いを放った。

「そりゃ、まぁ・・・」
(ありますとも。現在進行形だよコノヤロー。)
怪盗の心の呟きには気づきもしない探偵は、彼の応えにまたしても眉間に皺を寄せると、

じゃぁコイツはわかるのかな・・・なんてぶつぶつ独り言。

「・・・?どうしたんだよ?」
思いっきり不審気な顔をした怪盗に、もうちょっと訊きたいことがあった探偵は、イライラの原因を話すことにした。



「・・・今日さ、ここに来る前ちょっとした事件があったんだけどよ・・・」
それが愛情の縺れからくる殺人事件で。
トリックも犯人もすぐに解けたけれど・・・。
『あの腕の温もりが別の人のものになるくらいなら、いっそ時を止めてしまいたかった。最後に私の顔を見て、私の事だけ考えて死んでいったあの人に、私は後悔していない』
そう言って清々しい顔をしていた犯人の気持ちはわからなかった。



「殺したくなるほどの愛情ってどんなんだ・・・?」
さっぱりわからねぇ。
本気で人を好きになればわかんのかよ。

憮然とした態度で告げた探偵は、それでも少しだけ自信がなさそうだ。

「あ〜、それで名探偵は人を好きになったことないのねみたいなことを言われたと」
本気で人を好きなったことがあるのなら、この気持ちがわかるはずだと。

「・・・・まぁその通りなんだけどよ」

探偵は、少々バツが悪そうに頬を掻いた。
本気で人を好きになったことがないと、怪盗に告げているようで些か決まりが悪いのだ。
そんな探偵に、怪盗はおや?と首を傾げる。
「幼馴染の彼女は?」
自分が知る限り、探偵は幼馴染の彼女を大事に大事にしていたはずだ。
それこそ、本気で好きだったと今の今まで自分が思っていたくらいなのだから。


「蘭か?蘭は・・・」
彼女に対する感情も、確かに愛だと思うけれども、それは多分世間で言うところのものとちょっと違う。
「蘭は家族みたいなもんだから」



「ふぅん」
探偵が出した応えに、怪盗は微妙な顔をした。


そして考えこむこと数秒。
「じゃぁさ、名探偵」
「うん?」
「誰かとつきあってみれば?」
「・・・は?」
「名探偵は、その人の気持ちわからなかったんだろ?」
「・・・まぁ」
「でも、全てがわからなくとも、欠片だけでもそんな感情を知っていたら・・・」
止められたかもしれない、そんなふうに思ってたんだろ?
「・・・!」
怪盗が告げた言葉は、確かに自分がイライラしていた一番大きな理由で。
探偵はほんの少しだけ、自分のことをわかってくれていた怪盗が嬉しかった。

「だからって、誰かとつきあったって理解できるとは・・・」
「人の温かさくらいわかるかもよ?」
「・・・・にしたって誰とつきあうんだよ」
基本的に他人がいるのは落ち着かない。
蘭は・・・勿論ダメだし、灰原とつきあったらオレが犯罪者だ(だいたい恐ろしくて無理だ)。
真剣に悩みだす探偵に、
「あはは、じゃぁオレとつきあう?」
冗談めいた言葉を放った怪盗は、
「・・・言ったな?」
「え?」
「よし、決まりだ!じゃ、今からオレ、オマエの彼氏な」

続いた言葉に目をまん丸にして驚いた。




そんなこんなで、ある月の綺麗な夜に、探偵と怪盗はお付き合いを始めることになりました。






「は、はは」

































































































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ショートショート。
同じ設定で、気が向いた時に
めっさ短いssをポツポツ書いてく予定です。