いつからか、当たり前だと思っていた。
―――――――――――――抱かない理由
自分の容姿がとりたてて優れているとか女性的であるとか思ったことはなかったが、いつだったか幼馴染が言っていた。
『新一には妙に艶めいた色気があるのよ』
言われた当時はそんなワケあるかと笑っていたが、今ではその言葉が非常に的確だったのだと実感している。
最初が誰だったかはいまいち覚えていない。
それでも、自分はソイツとの間に友情を感じていたであろうことは推測できる。
親しい間柄で、信頼していた。
いつからだろう、新一がそう感じた相手は皆新一の身体を求めた。
最初こそそれに酷い屈辱感を覚えたが、あまりにも続く似たような事態に、新一は自分の感覚が鈍くなっていくことを頭の隅で自覚していた。
薄れていく屈辱感。変わりに生まれる当たり前という認識。
精神が自己防衛の形をとったにせよ、新一の中でそれが日常として処理されるようになるまで大した時間を要しなかった。
「なぁ工藤、今日家行ってええか?」
講義を終えて駅へと向かおうとしていた新一に声をかけてきたのは、同じ学部同じ学科の服部平次だった。
彼は自分と同じ探偵であり、新一は彼のことを信頼していたように思う。
そして彼はその他の友人達と同じように、新一を抱いた。
随分前からどうせ抱かれるなら楽しんだほうが利口だと、そんな達観した考えを持つようになっていた新一は、最近ではこうした誘いを断ることはなかった。
「別に構わねぇけど」
そうして二人、最近起きた事件の話などしながら辿りついた駅のホームで見知った人物の姿を見つけた。
「お、黒羽やないけ」
気づいた服部が声をあげると、その人物――――黒羽快斗はゆっくりとこちらを振り返った。
「服部、それに工藤」
言いながら近付いてくる彼は人懐こい笑みを浮べている。
親しげなその笑みに、新一は僅かに目を細めた。
黒羽快斗は大学に入ってから知り合った友人である。
新進気鋭の若手マジシャンとして既に名が知られるようになっていた彼は、新一や服部と同様に大学内での有名人であり、その容姿がたまたま新一に似ていたことから周りが面白がって自分たちを引きあわせた。
それからというもの何かと纏められるようになった3人は一緒にいる時間も多くなり、今では随分親しい関係だと言えた。
「二人とも今帰り?」
「おう。さっきそこでおうてな」
自分たちの前までやってきた黒羽はのんびりとした風で、この後特に予定はなさそうだと判断した新一は、ふと思いついたことを口にした。
「服部がこれから家に来るんだけど、オメーも来るか?」
「飲み会?いいね」
にこにこと笑いながら行くと告げる黒羽に、服部は一瞬だけ微妙な顔をしたようだった。
それはそうだろう、服部は新一を抱きたくて家に行ってもいいかと聞いたのだから、第三者がいればそれは不可能である。
それでも新一は知らぬふりをした。
近頃の興味の対象が、この黒羽快斗という人間だったから。
三人でくだらない話をしながら電車に乗る。
黒羽は探偵ではなかったけれど、新一や服部に引けをとらない博識ぶりだったため、三人での会話は非常にテンポがよかった。
(ま、怪盗KIDなら当然だよな)
服部が気づいているかどうかはわからなかったが、新一は彼のもう一つの顔に会った瞬間気がついたし、また黒羽は新一が気づいたことがわかったようだった。
特にお互いの間でそのことが話題に上ったことはなかったが、もしも新一が急に彼を捕まえようという気になったとしたら、彼はどんな反応をするのか、そんなことを考えるとますます黒羽快斗という人間に興味が湧く新一だった。
ともかく、新一は彼に興味があり、そして気に入っていた。
そして彼も自分を気に入っていると思う。(正体がばれた探偵を放置しておくくらいだ)
なのに、彼には自分を抱こうとする気配がない。
今まで彼くらい親しくなった友人たちは皆、新一を抱いたというのに。
最近は二人きりで時間を過ごすことも多いけれど、彼はまるで自分に対してそういった感情を表さなかった。
新一はそのことが不思議でならなかった。
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色々スミマセ・・・!!!