遠くでチャイムの音が聞こえた気がした。



いつの間にかあのまま眠ってしまっていたようだ。日は落ちたようで、室内は先ほどと比べ薄暗い。ぼんやりとしながらも時間を確認しようと新一は上体を起こした。
(・・・なんだ)
先ほどから1時間もたっていない。
起きていれば、またわけのわからない感情に振り回されそうな自分に、寝ていれば考えないで済むとばかりに再びソファに倒れこんだ新一は、
(・・・・・・・・・・・寝よ)
タオルケットを引き上げようとして―――。





開いた扉に固まった。






「く・・・ろば・・・」
「よぉ」
「・・・んで」
「わり。インターホン押しても返事なかったから・・・」
勝手に入らせてもらった。
そう言って黒羽は新一の横になっているソファへと近づいてくる。
新一は黒羽が一歩近づくごとにどんどん息苦しくなってくるのを感じた。
「電話くれたろ?出られなくて悪かったな」
「・・・いや・・・」
「きゅうに知り合いに呼び出されちゃってさ」
「へぇ・・・」
(知ってるさ・・・デートだろ)
先ほどの光景が新一の頭を過ぎる。
「どうもアイツの頼みは断れないっていうか・・・」
少女の顔を思い浮かべているのか、呟きながら黒羽の顔が優しくなった。
誰かを思い浮かべて優しい顔をする黒羽を見たくない、新一はそう思った。
「可愛いんだけど、たまに困るんだよな」


手を伸ばせば届いてしまいそうな距離にいるのに、自分の知らない世界を話す黒羽に、何故か新一の胸は軋む。
「携帯触るのも話聞き終わるまではダメって奪われちゃって・・・」
それで着信気づけなかったんだけど。

黒羽は笑う。優しそうに。

(そんな話なんか聞きたくない―――。)

新一は自分の感情が、ゆっくりと、けれど確実に制御できなくなりつつあるのを感じた。
「工藤にもいるだろ?そういう相手。たしか蘭ちゃ―」
「・・・・・・るさい」
「工藤?」
「そんなの知らない」
「・・・工藤・・・」
流れ出した感情の波は止められず、新一はその憤りを黒羽に向けるより他にどうしていいかわからない。
「・・・わけわかんねぇよ・・・」
何も悲しくなんかないのに、勝手に言葉と、それから涙が溢れ出していた。


「気がつくとオマエのことばっか考えてるし、むかつくし。なのにオマエはオレのことほったらかして女の子と仲良くしてるし、何でオレばっかこんな悩まなきゃいけねぇんだ・・・」

ぱらぱらと流れ落ちる涙。



だいたいオレは昨日、服部に抱かれそうになって気持ち悪くて死にそうだったんだ。
それだって黒羽のせいなのに。
また黒羽のせいでイライラしてる。



これ以上黒羽を見ていたら、ますます涙が止まらなくなりそうで
―――――――


「出てけよ」
「・・・工藤」



「オレ、もうオマエの顔みたくない」
「・・・工藤」



「出ていけ!!!!」



「・・・・・・わかった」
衝動から投げ付けた苛立った言葉に、黒羽がゆっくりと踵を返す。


徐々に遠ざかる背中に、先ほどよりも強烈に胸がキシキシと痛む。
扉がしまる。
小さくなる足音。






――――――新一は何故だか涙をとめることができなかった。



















































































































NEXT

情緒不安定。
・・・そして気に入らない。