「随分ご機嫌なのね」

玄関の鍵を閉めていた新一の背中に、門のほうから声がかかった。
胡桃色の髪をした少女が鉄格子の向こうからこちらを覗いてる。
「灰原」
「お気に入りの作家の新刊の発売日?」
「・・・・・・」
「それともよっぽど難解な事件でも起こったのかしら?」
「・・・・・そんなに機嫌よく見えたのかよ」
「それはもう、耳に悪いんじゃないかしらと思うくらいの歌声が聞こえてきていたもの」
「・・・・・・」
「で?本当は何があるの?」
「・・・別に何だっていいだろ?」
「あら、難事件にでも首を突っ込みに行くというのなら主治医としては健康状態のチェックくらいしておきたいものだわ」
「・・・別に事件に行くわけじゃねーよ」
「そう言って検診をすっぽかすのは得意技よね」
「・・・だから・・・」
楽しそうに新一を追い詰めていく少女に、いい加減反論をしようと新一が口を開いた瞬間、
「取り込み中だったか?」
少し笑いを含んだ声がそれを遮った。
「黒羽!」
「よ、工藤!ちょっと早く家出たから迎えに来ちまった」
哀に向けてこんにちは〜と手を振りながら、本日の新一の外出目的だった男が笑う。
「何だよ、そういうときは連絡しろ。行き違いになったらどうすんだ」
「ならなかったんだからいいじゃねぇか」
「ったく」
「で、話のほうはまだかかりそう?」
かかりそうならどっかで待ってるけど・・・、そう黒羽が言いかけたところで新一はじっとこちらを見つめる哀の視線に気が付いた。
「いや、すぐ終わる」
「そか」

黒羽に少しだけ待つよう目配せすると新一は哀へと向き直る。
「・・・ちょっと驚いたわ」
意外そうな顔をする哀に、少しだけ居心地の悪さを覚えた新一だった。
「だから事件じゃねぇって言ったろ?」
「・・・そうね」
「で?何か用事あったんだろ?」
「いいわ、別に急ぎではないから」
「なら行くけど・・・」
「後で色々聞かせてほしいものね」
「・・・じゃぁな」
「いってらっしゃい」
哀の見送りに軽く手をあげると、さっさと歩き出した新一にの耳に、

「どうしてあんなに楽しそうなのかしらね」
微かに届いた疑問の言葉。

(それはオレのほうが知りたいぜ・・・)

心の中でそう返した新一は、浮き足立つ自分の心に疑問を感じながらも、
どうやって黒羽をその気にさせるかに思いを巡らせるのだった。











































































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短いな・・・。