結局あれ以来一度も黒羽と寝ていない。
何度となく二人で出かけているものの、何故か普通に楽しむだけで終わってしまっている。
もちろんそれがつまらないのではなく、むしろ非常に楽しかったので、最終目的をいつも忘れてしまっていたのだが。
(実は上手くはぐらかされてるだけなんじゃねぇ?)
どうしても気になってしかたなくなった新一は、
(えぇい!わかんねーなら直接聞くまで!)
そう思い立つと、その日偶然出会った大学の図書館から、黒羽を自宅へと強引に拉致した。
「で?」
ミルクと砂糖のたっぷり入ったコーヒーを一口飲んだ黒羽は、訝しげな表情を新一へと向けている。
「・・・・・」
それに対して新一は、勢い込んで黒羽を自宅まで連れてきたはいいが、どうやって問いただせばいいものか悩んでいた。
(だって、いきなり何でオメーおれを抱かないんだよ・・・って何か変だろ・・・)
「・・・・・」
「・・・・・」
なかなか言葉を発することのできない新一が、口を開いては閉じ開いては閉じと繰り返していると、
「何かあったのか・・・?」
黒羽が顔を覗き込んできた。
その表情は何だか心配そうで。
(・・・何か余計な心配させちまってる・・・)
気づいた新一は、ようやく尋ねる決心がついた。
「・・・別にたいしたことじゃないんだ」
「うん?」
「ただ、オメー、他のヤツと違って・・・一度抱いたきりだから・・・」
「・・・・・」
「今まで仲良くなったヤツは皆、オレのこと抱きたがったから」
そうしていつの間にか独占欲を押しつけるようになり、それが鬱陶しくて気が付けば疎遠になっていった。
だからどうしてオマエは違うのか――――――――。
「何でオメーがオレのこと抱こうとしないのか、知りたい」
「・・・何だそんなことか」
変に思われたかもしれないと若干の緊張でもって黒羽の反応を待っていた新一は、黒羽のあまりに軽い応えに肩から力が抜けるのを感じた。
「そんなことっとオメー・・・」
溜息をついてソファーへと寄りかかった新一に、黒羽は少し笑って話し出す。
「だって工藤、オマエ抱かれてた相手とどうなってる?」
「・・・?ほとんど連絡取らなくなってっけど・・・?」
「じゃぁオマエ、オレと一緒にいんのつまんねぇ?」
「・・・面白い」
「だろ?オレも工藤と一緒にいんの面白い」
「・・・」
「だから、疎遠になんのは勿体ないだろ?」
「・・・・」
そもそも疎遠になってしまっているのは、抱かれた相手の皆が皆新一をそういった視線でしか見なくなったから。
(黒羽だったら変わらなそうだから、抱かれたところで疎遠にはなんねーと思うんだけど・・・)
そもそも一度抱かれているのだし・・・、そんなことを考えてふと新一は気づいた。
―――――――自分は、もう一度黒羽と肌を重ねたい。
最初は黒羽が他のヤツと違うのか、違うとすれば何が違うのか、それを知りたくて黒羽をその気にさせようと躍起になっていたけれど・・・。
(今オレは、純粋に黒羽と寝たいと思ってる・・・?)
確かに黒羽とのセックスは今まで経験した誰とのものよりも心地よいものだったけれど。
(・・・オレそんな性欲強かったか・・・?)
今度は別のことが気になりだしてついつい意識がそちらに向かってしまった新一だったが、ふと髪を触られた。
暖かな感触に顔を上げれば、黒羽が少しだけ口の端をつりあげた表情でこちらを見ている。
「?」
どうしたと問おうとして遮られた。
「・・・まぁ、工藤に気持ちがあるなら抱きたいけどな」
謎かけみたいな言葉だった。
黒羽に抱かれたいという気持ちなら、確かに存在しているのに。
新一には黒羽の真意が量れなかった。
そしてその言葉とともに一瞬だけ垣間見せた黒羽の少し切なげな表情に、新一は胸がざわつくのを感じていた。
NEXT