服部が出て行き、扉が閉まったのを確認すると、新一はゆっくりと詰めていた息を吐き出す。そうすることで強張っていた体が、少しだけ落ち着いた気がした。
そうして新一は考える。

(何なんだよ、この嫌悪感)

今までこんなことなかったのに。



最近の出来事を思い返して、ふと思い当たった。

―――――――――黒羽のせいだ)
黒羽に抱かれたせいで、身体がきっとおかしくなってしまったのだ。
そう結論付けた新一は、明日黒羽に文句をいわねばと思いながら、ゆっくりと寝やすいように身体を動かした。


黒羽のことを考えると、何故か身体から少し嫌悪感が消えていく気がした。









「黒羽しらねえ?」
「何か電話が来て、慌てて帰ってったぜ?」

探しているときに限って見つからないなんて、よくあることだけれど。
珍しく電話にも出ない黒羽に仕方なく構内の思い当たる場所を探していた新一だったが、結局見つからず。
かわりに見つけた、黒羽と一緒にいるのを何度か見かけた青年に黒羽のことを尋ねたら、今日は一限だけで帰ったとのことだった。


「ったく、オレが探してんだからずぐ見つかれよな〜。ってーかそもそも電話に出ろってんだ!」
黒羽のせいで身体はおかしくなるし、何だかこうして会いたい時に会えないと妙にそわそわする。
見つかる保証はなかったけれど、本人に会って文句を言わなければ落ち着いて本も読めないと、新一はとりあえず会える確率が高そうな、黒羽の家へと足を向けた。



(そういえばアイツの家まで行くのってはじめてだな・・・)
場所は知っていたけれど、意外に訪れる機会がなかった。
(ずっと外で会ってたもんなぁ・・・)
最後に会ったのは新一の家でだったけれど、黒羽は新一が誘うたびに、新一をあちこちへと連れて行った。連れて行かれる場所がまた新一のツボをついていて・・・。
(結局寝ようと画策してはいたけど、楽しかったんだろうな・・・)
そんなことを考えるうちに、いつの間にか黒羽の住む家の近くまで来ていたことに気づく。
「確かこの辺・・・」







その光景は角を曲がった瞬間に飛び込んできた。








肩よりも少し長めの髪が、風に揺れている。
色白で華奢な手足。
・・・・・・・・・・・・とても可愛らしい女性。

頬を膨らませて黒羽に何かを言っている。
言われている黒羽は、苦笑しながらも彼女を宥めているようだ。
黒羽の手のひらが、ゆっくりと彼女の髪を撫でる。
宥めるような優しい仕草に、彼女は膨らませていた頬を、ほんのりと染めた。
そうして二人笑いあう。
彼女を見つめる愛おしそうな黒羽の瞳を何故かそれ以上見ていられなくなって、新一は逃げるようにその場を後にした。












夕方数回黒羽から着信があった。着信履歴に新一の名前があったことに気づいたのだろう。新一は自宅のソファに深く座ったまま、テーブルの上で振動する携帯をただじっと見ていた。
しばらくして携帯は振動をやめ、室内には静寂が訪れる。


(・・・今までオレからの着信に気づかないで、彼女とデートでもしてたのかな・・・)


(それでまた、彼女とのデートに戻ったんだ・・・)


「・・・・ックソ!・・・んで・・・」
何でこんなに苦しい
――――――――


先ほどの黒羽のあの女性に向けられた優しげな表情を思い出すたび、ジクジクとした痛みが胸に広がる。
考えないようにしようと思えば思うほど、黒羽のことが頭から離れない・・・。

何で今日は一限で帰ったのか。

何で電話にでなかったのか。

あの人と何を話していたのか。

―――――――――あの人とはいったいどんな関係なのか。


全てのことが、聞くまでもないことで。
考えたくもないことで。
それでも新一は考えずにはいられない。


(・・・恋人、なのかな・・・)
思った瞬間わけのわからない気持ちが溢れてきて、どうしようもなくて、
新一はたまたま近くにあったタオルケットを深く被ると、キツク握り締めた。







なぁ黒羽、今もオマエは彼女の隣にいるの?



























































































































































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青子ちゃん。
少女と書くには大人で、女性と書くには子供だと思う。