01:別れる時まで、一緒にいましょう。






「別れの時まで、一緒に居て・・・」




指先が、頬に触れた。

静かに目を開ければ、優しげな表情が覗きこんでくる。
「大丈夫か?」
「・・・あぁ」
自分ではもう大丈夫かどうかすら判らなかったけれど、オレは少し笑って頷いた。
それほど遠くないところで、何かが崩れるような大きな音が響く。
「そうか、よかった」
目の前の顔が、優しく微笑んだ。
頬に触れていた指が、いつの間にかオレの手に重なっている。
自分の意志通りにはなかなか動かなかったけれども、どうにかしてオレは、その優しい指先に自分の指を絡めた。
優しい表情と優しい指の持ち主は、何故だか泣きそうに顔をしかめながら、それでも嬉しそうに笑った。

オレは時間が限られていることを知っていた。
彼も時間が限られていることを知っていた。

彼の表情は本当に嬉しそうで、オレはもう全く思い通りにならない体で、彼を抱きしめたいと思った。

オレの体は動かない。
彼はただ、優しくオレを見ている。泣きそうに、嬉しそうに。
(抱きしめたいなぁ・・・)
口に出たのかどうかはわからなかったけど、思いが通じたかのように、彼がオレを抱きしめた。
(あぁ、でも逆だ・・・)
抱きしめられたいんじゃなくて、抱きしめたい。
最後まで、彼に嬉しそうな顔をしていてもらいたい。
(あ、でもオレの短い腕じゃちゃんと抱きしめてやれねぇな)
自分の考えがおかしくてオレは彼の腕の中でちょっと笑った。
それを見た彼も、やっぱり泣きそうになりながら嬉しそうに笑った。
(逆でもいいや)

(だってオレ、今すげぇ幸せだ)

あたたかい腕の中で、彼の鼓動が聞けて。
どうせなら最後に我侭の一つでも言っていいだろうか?
ゆっくりとぼやけた視界で彼を見つめると、
何?と優しい声がふってきた。

あのさ、オレさ、最後に見るのはオマエの笑った顔がいいな。
嬉しそうに笑った顔。

もうちゃんと言えたかどうかもわからない。
それでも伝わったのか、彼はどうにか笑おうとしているように見えた。

バッカだなぁ、そんなんじゃねぇよ。
まだまだ嬉しそうじゃない。
やっぱオレが抱きしめてやんなきゃダメなのかな。

だってオレ、オマエの笑顔を心に刻み付けたいんだ。
だから別れの時まで一緒にいてって言ったのに。
ホントダメだな、オマエヘタレ。

仕方ないから、とっておきの一言を伝えてやろう。
それでダメならダメ男決定だ。

「・・・キ・・ド・」





「・・す・・・き、だ」







できるじゃねーかバーカ。
ホントにホントに嬉しそうに笑った顔。なのに何でかオレの顔にはぱらぱら雨が降っていた。
さあ、返事を聞いてやろう。
そう思うのに、もう彼の顔も見えず、何も聞こえなくなっていた。

ああ惜しい、オレにあの言葉を言うアイツの顔もきっとなかなかの顔に違いないのに。



混濁してくる意識の中で、やっぱり嬉しそうな笑顔より、そっちを注文すればよかったなんてオレは思った。










































































































NEXT