04:一瞬闇色に染まったその瞳が、忘れられない。




「ちょっと新一!聞いてるの!?」
「あ、わりぃ蘭。映画だっけ?」
「そうよ。日曜封切のヤツ」
「あ〜・・・」
大声で話しかけられるまで、隣に蘭がいたことを綺麗に忘れていた。
自分の彼女だと言うのに。

それでもオレの意識が向かうのは、少し離れたところに見える制服姿の二人連れ。
何でこんなに気になるのかはわからなかった。




どうもオレには、高校2年時の約一年間の記憶がないらしい。
いつの間にか知らない知り合いがいっぱいいたし、
新聞やニュースからも納得せざるを得なかったけど、正直なところ実感はあまりない。

しかも、その記憶喪失の間、オレは両親にあちらこちらと連れまわされていたらしく、
学校は休学、蘭とさえほとんど会っていなかったらしい。
復学して蘭にまず言われたことは、
『好き。傍にいて欲しいの』
だった。
そりゃぁ一年もほったらかしにしていたら、傍にいろくらい言うだろう。
前々から蘭に淡い恋心を抱いていたオレは、彼女と付き合うことにすぐにOKした。

なのに。





なぜか蘭よりも気になってしまう相手がいる。

ソイツはオレが目覚めたときに、一番近くからオレを見ていて・・・。
オレの友人で、見舞いにきていたのだと言った。
友人だと言うわりに、オレが目覚めて以来入れ替わり立ち替わり友人だと名乗るヤツが訪れる中、ソイツはその日以降オレの前へと現れなくなった。
博士に聞いた名前も、オレの携帯に登録されてはいなかった。

オレが目覚めたときに、もの凄く心配そうな顔してたくせに。
オレが起き上がったとき、本当に嬉しそうな顔で笑ったくせに。


オレの記憶がないのだとわかった瞬間、
ほんの一瞬だけ暗く濁ったその瞳が、忘れられない。

あんなに嬉しそうな顔をして笑うソイツに、そんな瞳をさせてしまったのは自分なのかと、ひどくやるせない気持ちになったのを覚えてる。
それでもその陰は一瞬で、後はただよかったというような優しい顔でオレを見ていた―――。

だから本当に親しい友人だったのだろうと思ったのに。



なぁ、どうしてオレに声かけねぇの?
なぁ、どうして会いにこねぇの?


なぁ、どうしてオレに向かって笑ってくれねぇの?



(・・・ん?)
何だか自分の思考がよくわからないほうに流れ出したので、蘭が怒り出さないうちに会話に集中しよう。
「だから、日曜日に見にいこうよ!」
「あぁ、そうだな」
日曜ならこうやって遠くから見ることもできないし。
頷くオレに蘭が嬉しそうに笑う。
「・・・ね、新一」
「うん?」
「一緒にいてね?」
「・・・あぁ」

嬉しそうに笑う顔。
一緒にいてという言葉。

何かがひっかかるのに、それが何かはわからない。
ただ何となく、アイツの笑顔をもう一度見たいなぁなんて思った。



































































































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