08:この口から語るのは真実ばかりではないよ。






「なぁ、なんでアレ以来オレんち来ねぇの?」


遠くから見守ろうと決心した相手に、こうもあっさり揺さぶられてる。

いつもの通学路。
掃除当番の青子を置いて一人でのんびり歩いていたら、いつも彼女と歩いてるはずのその人に、いきなり腕を掴まれた。
「や、何でって・・・別に・・・」
「オメー、オレの見舞いに来てた。後で博士から聞いたけど、頻繁に来てたらしいじゃねぇか」
「・・・・・・・・・」
「頻繁に見舞いにくるくらい親しいのなら、遠方に住んでるとかそんな理由でもない限り、日常的に会ったりしてもおかしくねぇだろ?」
「・・・・・・・・・」
「それにオメー、オレが起き上がったときすげぇ嬉しそうな顔してた。・・・ホントに心配してくれてたんだろうなって後から思って・・・」
「・・・・・・・・・」
「どう考えたって親しかったんだよな?」
「・・・・・・・・・」

「なぁ、なんでアレ以来オレ見かけても声かけねぇの?」


あぁ全く・・・どんなことがあっても、君は名探偵に違いない。
変わらない君が嬉しくて、見破られないようオレは仮面を被る。
「・・・見舞いは、ちょうどあの時期近所に用事があったからついでに寄ってたんだよ」
「・・・・・・・・・」
「それに意識がなかった知り合いの意識が戻れば、誰だって嬉しいもんだろ」
「・・・・・・・・・」
なぁ、名探偵?
この口から語るのは真実ばかりではないよ。
でも君が、君の大切にしていた日常を生きるためには欠かせないものだから。
だからオレは、精一杯大切な君を誤魔化そう。
まだオレは誰かの隣で幸せそうに笑う君を、本当には祝福できない。
だからせめて、君の前ではポーカーフェイスも難しい怪盗の、上手くつけない嘘にどうか騙されて?

「別に、たいして親しくなかったぜ?」
「ふぅん・・・」

なぁ、名探偵?
この口から語るのは真実ばかりではないよ。
だから君が嘘だと疑ったときのために、少しだけ真実をまぜるよ。
嘘とホントの境界線が曖昧になるように。

「・・・でも、調子よくなったみたいでよかったな」
「・・・・・サンキュ」

驚いたように目を丸くして、照れたように礼を言う君に、オレは少しだけ笑った。

君の声をきけて、君の顔を見られて。
今日は嬉しかったよ。
だからもうオレは行かなくちゃ。

「・・・じゃぁ」
片手を上げてその場を去ろうとしたオレに、


「まぁいいや、これから親しくなろうぜ?」
「・・・・っ」


彼は眩しい笑顔でそう言った。










何故だか彼の家へと連行されながら、ふと彼が呟くように言った言葉。
「何かオレ、・・・・笑った顔がみたいんだよな・・・」


嘘ばかりを告げるオレに。
まるでそんなことどうでもいいと言うように、君は綺麗に笑いかける。



もう記憶なんかなくても。
それだけで。







































































































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