撃たれたと思ったとき、アイツの笑った顔がみたい、そんな呑気なことが頭をよぎった。





                        3:ごめん、どうしても今……抱きしめたくて。






しぶしぶとだけれど最近黒羽が会ってくれるようになっていた。
やっぱりオレとコイツは親しかったんだと感じることも多い。
オレの記憶がない間の話を彼がしたわけではないけれど、ふとした拍子に見せる何気ないことが、そうだと語っていた。
たとえば見事にオレ好みに淹れられたコーヒーとか、オレの不調にいち早く気づくところとか。
何かあったときにも、驚くほどオレが動きやすいように先読みしてる。

彼はたまに何とも言えないような顔をするけれど、一緒に過ごす時間はとても心地がよかった。


その日はオレが体調不良で。
原因は前日に発売された本たち(三冊購入したのだ)を夜通し読んでしまったという、あまりおおっぴらにはしたくないものだったのだが。
新聞をとりに外に出た際に、たまたま隣家に来ていた黒羽に見咎められて、説教されていたところに目暮警部から電話が入った。
文句をいいながらも、オレが事件をほっておくわけがないとわかっていたのか、捜査に参加することを許してくれた黒羽だったけど。



見張りと称して着いてきていた。



(過保護…)
なんて同い年の友人に向ける言葉じゃないと思ったけれど、彼はオレに対して時々そんな感じ。
普通ならうっとおしかったりするはずなのに…。
(でもなんか…くすぐったい…)
なんて。

現場から少し離れたところからこちらを見ている彼に、そんなことを思った。



「こんなことができるのは、新堂さん、あなたしかいないんです…」

トリックをとき、それでもとぼけたふりをしている事件を起こしてしまった人は、オレに名前を呼ばれた瞬間、暗く笑った。
その表情に嫌な予感を覚えたオレはとっさに辺りを見渡す。
笑顔の意味するところに気づいたオレが、
(まずい…!)
思った次の瞬間にはソイツは走り出していた。
警官が威嚇のためにと持っていた拳銃を奪い取ると、そのまま近くの林へと逃げていく。

いち早く追いかけたオレだったけれど、林がうまい隠れ蓑になってソイツの姿が時折視界から消える。
徐々に差はつまりつつあったが、追いつくまでにはまだ遠い。
また、うまく木を使われて視界からソイツの姿が消えた。

姿をとらえるためにソイツが木の陰へと消えた場所に走り込む。
ふいに開けた視界に、思わず目がくらんだ。
(寝てなかったからな…)
自分の体調に舌打ちをしつつも、犯人を追わなければと目をあけた瞬間―


ぱぁん!


耳をつんざくような音と、身体が傾く感覚はほぼ同時だった。

バランスを崩した身体は、徐々に地面に近づいていく。
(撃たれたのかー…)
思った瞬間頭をよぎったのは、何故かアイツの笑顔を見たい…そんなことだった。





「工藤!」
地面にぶつかることを覚悟したオレの身体が、強い衝撃を受けることはなかった。
「…黒羽」
どうやらオレが走り出したすぐ後を追いかけてくれていたらしい。
彼の腕が地面と仲良くなりそうなオレを受け止めていてくれた。

さらに遅れてやってきた警官たちが、オレを撃ったことで足がとまった犯人を取り押さえている。

「工藤!」
撃たれたオレより青いんじゃないかと思う顔色で黒羽が名前を呼ぶ。
オレは安心させるために、痛みを少し我慢してゆっくり笑った。
「大丈夫、腕をかすっただけだ。避けようとしたんだけど、ちょっと目がくらんでバランスくずしちまって…」
オレの話を聞きながらも、黒羽は傷口の様子を確認していく。
それほどひどくないのを確認して、黒羽は一瞬とても情けない顔をした。

その顔をみた瞬間、気づいたらオレは黒羽を抱きしめていた。

「おいっ…!」
手当しなきゃだめだろ!力入れんな!!
声をあげる黒羽を無視して、オレはさらに彼を抱きしめる。

何だかずっと、こうしたいのだと思っていた気がする。
ちょっとだけ盗み見た彼の顔は、悲しいような嬉しいような、何とも難しい表情だった。

ごめん、どうしても今……抱きしめたくて
告げたオレに、困ったように笑った黒羽は、オレを支えるように片腕をまわしながら、器用にオレの傷の応急処置をし始めた。
   

(何でだろう・・・)
オレ、今すげえ幸せだ。


黒羽の心臓の音が聞こえる。規則正しい鼓動と暖かな腕に、思い出したように睡魔が襲ってくる。
(あー・・・起きたら怒られそう)
そう思いながらも、とても心地よくて。
「応急処置はしたけど、後で哀ちゃんとこ行ってちゃんと見てもらわないとだぜ・・・っておい」
(・・・コイツにまかせとけば、大丈夫だよなぁ・・・・)
抗えない眠気に、オレはゆっくり黒羽の腕の中で眠りに落ちた。












――――――――き、だ」
意識がぼんやりとしてくる瞬間に、ずっと聞きたかったことを聞いた気がした。


























































































































































NEXT

私の勘違いで、
「ごめん、どうしても今……抱きしめたくて」に変更されてます。
ホントのお題は「ごめん、どうしても今……逢いたくて。」です。反省・・・。