10:さよならは言わないけれど。
何となく、予感はしてた。
一年強を留守にしていた新一が戻ってきて。
最初はただただ嬉しくて、もう離れたくなくて。
『好き。傍にいて欲しいの』
告げたのは私からだった。
新一はちょっと照れながら、バーロォなんて言ったりして。
その日から私たちは恋人になった。
幼馴染だった頃から大きく変わることはなかったけれど。
一緒に映画を見たり。
一緒に買い物にいったり。
事件ばっかり優先させる新一に文句言って。
必死で謝る新一に吹き出してみたり。
少しだけ変わったことは、時々手を繋ぐようになったことと・・・。
一度だけ、私から背伸びしてふれた、ちょっとかさついた唇。
目を真ん丸くして固まって、その後真っ赤になってた姿に、
あぁ、この人もちゃんと私のこと好きでいてくれてるんだ、
そう思った。
・・・・・・・そう思ったのに。
浮かれていたはじめのうちは気づかなかった。
でもだんだんと、彼が隣にいることに慣れてきた頃に気がついた。
新一が、どこか遠くを見ていることに。
最初は記憶を失ってることと関係があるのかななんて思ってた。
だけど。
新一が見ていたのは遠くというには近かった。
どこかへ誘うのは私から。
手を繋ぐのも私から。
電話は―・・・事件で待ち合わせに来られないときには新一からもあったけど、
夜に声を聞きたくなってコールするのも私からだった。
唇だって、私から触れた一度だけ。
何度かそんな雰囲気にもなったはずなのに、新一は私に何もしなかった。
新一が見ていたものに気がついたのは、よく晴れた日曜だった。
私は新一を買い物に誘ったけれど、新一は友達と出かける約束をしてしまったと、申し訳なさそうに断った。
少し寂しかった私は、園子を誘って買い物に出かけた。
空は気持ちよく晴れていて、園子と出かけるのも本当に楽しかったけれど、
新一と一緒に公園を散歩したりしたかったなぁなんて。
ぼんやり思っていたことが顔に出たのか、園子に公園でアイスでも食べよう!なんて誘われて。
公園で新一を見かけた。
園子は気づかなかったみたいだけれど、その時の新一はとても楽しそうで、とても幸せそうで。
一緒にいた人が何か言うたび、何かするたび、見たこともない表情で笑う新一に、
あの、どこか遠くを見ていた視線の先にあるものは、その人だったのだと知った。
新一から別れを告げられたのは、それからすぐのことだった。
「ごめん、蘭・・・オメーのこと、本当に大切だけど・・・」
予感はしてたの。そろそろくるんじゃないかって。
だから何度も練習したんだよ?
いつまでも、新一の中でイイ女でいたいから。
「さよならは言わないよ?
恋人じゃなくたって新一は、大事な弟なんだから!」
笑って言えた?
私綺麗に笑えてた?
新一が私のことをあの人に話すとき、イイ女だと言ってくれるといい。
新一が時々、イイ女だったと思い出してくれるといい。
きっともう二度とあなたと話すことはない。
だって私は、あなたの幸せをもう願えない―――。
さよならは言わないけれど。
永遠にさようなら。
NEXT
ごめんなさい。