―――――嵌るは、誰そ
昼下がりの図書館。
日曜日にしては利用者が多いのは、近隣の中高生が定期テストの期間だからだ。
ページを捲る音、ペンを走らせる音、耳に入ってくるのはほとんどがそんな音だったが、
柔らかい日差しが差し込む窓際の席からは、睡魔に負けた学生の小さな寝息も聞こえてきていた。
平和な午後。
奥まった席を陣取っていた新一は小さく伸びをすると顔を正面へと向けた。
レポートが一つ書きあがり集中力が途切れたのだ。
凝り始めた首をゆっくりとまわせば小さくコキリと軋んだ。
あー・・・飽きた。思うと同時に新一は周囲を観察し始める。
常に周りを観察してしまう癖は新一が小さな頃からのものだった。
探偵業―と言っても職業なわけではないけれど―には思いの外役立っている。
新一はその観察眼を正面に座る相手へと向けた。
何度も会ったことがある相手だけれど、本当の名前は知らない。
ここで一緒になったのも偶然だった。
特にこちらを気にした様子もなく、レポート用紙をとまることなく埋めている。
少し右上がりで連ねられる文字は意外に綺麗だ。
それらを生み出す指は、男にしては細くけれど長い。
魔法をいとも簡単に生み出せる手だ。きっと開いたそれなりに大きいのだろう。
色々なことを隠せるくらい。
そう思うと新一はとても興味を惹かれた。
触りたい。心の声に躊躇うことなく新一は手を伸ばした。
驚いたような顔がこちらを見上げている。
新一は気をよくして、ゆっくりと自分の手のひらで魔法の指先を包んだ。
握っていたペンを外させると自身の左の手のひらに重ねさせる。
向きを変え、細く長い指の合間に自分の指を交互に差し入れた。
抗うことはされなかったけれど、とても訝しげな視線がこちらを見ている。
握り締めた手のひらは少し冷たく、新一の体温を奪っていくようだった。
そのまま引き寄せて、閉じこめるようにその上に右の手を覆い被せる。
吸い付くような皮膚の感触にうっとりとしながら、指の腹で手の甲を手首から指先へと撫でると、くすぐったさにか、ピクリと震えが伝わった。
自分の手から、逃げださない。捕らえることができたかのような錯覚。
心まで捕らえられたらどんなにかいいだろう、捕らえられたらコイツはどんな顔をするだろうと思いを巡らせて。
ふとかちあった視線に新一は気づいた。
いつの間にか訝しげな視線は、悪戯が成功した子供のような笑顔へと変わっていた。
それは何故かとても鮮やかで、けれどどこか妖艶で。
(捕らえられているのは―――――――)
罠に嵌った自分を知った。
・・・久しぶりの更新が新快なのも如何なものかと思いつつ。
そういえば、サイトに新快と言い切ったものを置くのは初めてですね・・・。
(常に新快くさいのは流石に自覚症状有り)