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特にフェストゥムとかいない、普通の学生ってことで。
翔子も生きてるし、甲洋も普通の人間です。
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太陽がじりじりと照りつけて室内までその熱が流れ込んでくる。
湿度もそれなりに高いのか、額に汗を滲ませているものも多い。
夏休みを目前に控え、昼休みの教室には妙に浮き足立った空気が流れていた。
校庭へ遊びに出なかった生徒たちの間では、どこへ行く、何をする、そんな話が飛び交っている。
総士の前の席に腰掛けて、何とはなしに周囲の会話を聞いていた甲洋だったが、ふと思い立って、黙々とノートをまとめている総士を見た。

「総士は夏祭りとか、行かないのかい?」
自分が発した問いに、少なくとも二人、こちらへ意識を向けるのを甲洋は感じた。

「今のところは特に行く予定はない」
総士はこちらに向けたれた意識に気づくことなく応える。視線はノートから外れないままだった。
今のところ、というのは、彼の妹の乙姫が一緒に行こうと言い出したら予定が覆るからだろうなと、甲洋は総士の意図したところを的確に理解した。
理解はしたが。
自分の考えに思わず可笑しくなりながら、甲洋は言葉を続けた。

「じゃぁ俺と一緒に行こう」

ずっとノートを見ていた総士の視線が、甲洋へとうつされた。
かすかに瞳が見開いている。
更に、総士の席の向こうでも、目を見開いてる人がいるようだが、甲洋はそちらのことは気にしなかった。

そういう意味での今のところではなくて。そもそも羽佐間と行かなくていいのか。僕と行っても楽しいことなどないと思う。
甲洋が想像する総士の思考はこんなところだ。強ち間違いでもないだろう。
でも、もう一押しくらいすれば、承諾するかな。考えながら甲洋は口をひらく。

「今のとこ、予定なかったんだろ?」

「そう、だが・・・それ、は」
乙姫の都合によってだ、続けようとした総士の言葉にかぶせるように甲洋は言った。
「じゃ、決まり!」

「……………………………………わかった」
まぁいいか、多分乙姫はクラスの友人と行くことになるだろうし。そんな思考のにじみ出た総士の承諾に、予想以上に嬉しさを覚える自分がいる。と、同時に、息を飲む気配を感じた。
それにかすかな優越感を抱いて、甲洋は視線を気配の元へと移す。
そこには、驚いたような傷ついたような、歪んだ表情を覆い隠そうとしている一騎がいた。

オレっていつからこんなに性格悪くなったんだろうなぁ。客観的に自分のことを思いつつ、こちらを見ていた彼と目が合うと甲洋はにこりと微笑んだ。



(俺が、貰うよ)





音に出さずに呟いた言葉に、それこそ零れんばかりに一騎は目を見開く。そんな彼に甲洋は満足そうに微笑むと、もう興味はないと視線を総士に戻した。

「じゃぁ、一緒に行こう。約束な」
「あぁ」

目にかかってしまっていた長めの髪を、そっとよけてやりながら甲洋は笑う。
困惑が勝ってはいるが、それでも目元を緩め微笑む表情を作った総士に、感動を覚えていると、ピシャリと教室のドアが閉まる音が聞こえた。






本当に手に入れられたら、どれだけいいだろう。
廊下を走り去る足音に微かな苛立ちを感じながら、甲洋は”報われない”ということに今だけは目を瞑る。







































































































最初にアップするのが純粋な一総でないのはどうなのか。